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【ゆうゆうLife】向き合って 前鳥取県知事・片山善博さん(58)(産経新聞)

 ■妻の病名宣告から10年 最後は家族だけの介助

 前鳥取県知事で慶応大法学部政治学科教授の片山善博さんは昨年7月17日、妻、弘子さんを悪性リンパ腫で亡くした。享年57歳。病名宣告からの10年間、ともに病魔と闘った。亡くなるまでの4カ月間は6人の子供たちと、次第に病状が悪化する弘子さんを支えた。最愛の伴侶(はんりょ)を亡くしてからは強い喪失感に耐えながら、残された家族7人で「元気を出してがんばろうね」と励まし合い、深い悲しみを乗り越えようとしている。(文 太田浩信)

                   ◇

 妻が病気を宣告されたのは私が知事になって1年近くたったとき。ショックでした。診断のきっかけは目の下にできた腫瘍(しゅよう)。眼科でここの仕事ではないと言われ、鳥取の県立病院で「悪性リンパ腫です」と。知事選前、東京にいたとき、同じような腫れ物を眼科で取っていたので気楽な気持ちでした。「治癒は望めません。ただし悪性度は低くて緩慢な進行だから当面、支障ありません。ストレス、過労などに注意すれば、平均余命は7年くらい」と宣告されました。

                 □ ■ □

 最初は経過観察だけ。腫瘍が出れば放射線治療していたが、発病後7年ぐらいで化学療法へ。腫瘍もスーと消え、本人も「また出れば化学療法をすればいいんだ」というつもりでした。その化学療法も頻度が増え、(昨年)2月にやったらもう効かない。妻は3月まで鳥取にいましたが、新しい化学療法を受けるため4月2日に東京で入院。それから私は朝病院に行き、大学で仕事をしてまた病院へ、という毎日。あとは子供が付き添いました。子供は4男2女。「夜、寂しいだろう」と、交代で病室に寝泊まりしてくれました。

 化学療法は結局だめで、あとは熱を抑えるなどの対症療法。いつまで持つかという治療でした。本人も「家に帰りたい」と言うので医者と相談し、5月から土日の4回、試験的に鳥取へ戻った。でもね、筋肉が弱って足腰が立たなくなる。6月初めに鳥取の自宅に帰ろうと決めました。風呂も私が介助しながら入浴。力仕事は私と男の子で、身の回りのことは娘2人がしました。本人は家族だけの介助を本当に喜んでました。

 家内とは高校の同級生でしたから41年間のつきあい。結婚から34年、ずーっと時間を共有してきたので共通の体験が多い。親戚(しんせき)や友人、過去のこと、子育てとか。私にとって家内は外付けのハードディスクみないなもの。例えば写真を見て、「これはいつのことだったかな」と言えば、妻が「あのときのものですよ」と。パソコンのデータが消えるように、自分が忘れたことを覚えている人が亡くなったとき、すごく喪失感が強い。自分しか(昔のことを)子供に語れる人がいなくなっちゃいました。

                 □ ■ □

 (2期で引退したのは)長く権力の座にいた人が良くなることはない、清新なうちに辞めよう、醜態をさらしたくないという美学があった。3期はやってもいいかなと悩んだが、3期目は妻が発病して12、13年になる。知事をしていては思う存分、介助できない、と頭をよぎりました。辞めてよかった。東京と行ったり来たりだけれど、1週間のうち3日半くらいは鳥取で一緒にいられた。一緒の時間は、役人や知事のときより正味で長いんです。

 配偶者を亡くした男性がどうやって立ち直ったか、という体験談が一番参考になりました。いろんな人が「やっぱり半年間辛(つら)かった」と話してくれました。「何とか半年間を生き抜こうと思ったら忘れることだ」と。(元財務相の)塩川正十郎さんからは「仕事をすることですよ。仕事を一生懸命したら、いらんことを考えなくていいから」と言われました。

 ただ、今でも鳥取と往復していますが、空港に着くと家内が必ず迎えに来てくれていたんです。今はもうそれがない。そのとき、あーもういないんだな、と思います。

                   ◇

【プロフィル】片山善博

 かたやま・よしひろ 昭和26年、岡山県生まれ。49年に東大を卒業し、自治省(現総務省)に入り、自治大臣秘書官、鳥取県総務部長、同省府県税課長などを歴任。平成11年の鳥取知事選に出馬し初当選。2期8年務め、改革派知事の代表格と呼ばれた。19年の知事選には出馬せず、慶応大教授に就任した。

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